第101話
『怒りの種』
ストレスを抱えた大人がいました。
この大人が自宅の裏山を歩いていると、猿に出くわしました。
猿は「キー!」と叫びました。
「うるさい、何がキーだ!」
すると、大人は猿を殴(なぐ)りました。
「痛い!」
その猿は大人を恨(うら)みましたけれども怒りをぶつけられませんでした。
「仕返ししたいけれど、あの人は大人だから力持ちだろうし、返り討(う)ちに遭(あ)うだけだな……」
そう思っていますと、殴った大人の息子がやってきました。
猿は子ども相手なら勝てると思いました。
「さっきの恨みだ!」
息子は猿に泣かされました。
自らの行いは自分へ直接に返ってくるだけではなく、己が身を置く環境に影響を与え、周囲の大切な人を巻き込むこともあります。
大人が猿に蒔(ま)いた怒りの種は大樹(たいじゆ)に育ち、その息子にも枝を伸ばしました。
真宗大谷派 唯徳寺