第95話
『楽しい音』
一人の音楽家がいました。
初めは路上などで演奏していたのですが、段々と人気が出てきて、その評判が王様まで届きました。
遂に王宮へ招待され、演奏することになりました。
演奏を聴いた王様は「素晴らしい!」と喜び、音楽家に大金を与えると言いました。
ところが、いつまで経ちましても音楽家は大金を貰えません。
ある時、王様を見掛けた彼は、恐る恐る聞いてみました。
「王様、私は先日、王様の前で演奏した者です。あの時に王様がおっしゃったお金をまだ頂いておりませんが……」
王様は一銭も出さずにこう返しました。
「お前は音楽を聴かせ、儂を楽しませてくれた。だから、儂は大金を与えると聞かせ、お前を楽しませたのだ」
王様は人を楽しませる音という点で、自分の言葉と音楽家の演奏は同じものであると言いたかったのでしょう。
しかし、王様の言葉には実態が伴っておらず、空しいものでしかありません。
真宗大谷派 唯徳寺