第102話
『龍の王さま』
昔、豪華な生活を送る龍の王さまがいました。
龍王が暮らす龍宮は、宝石をちりばめた広間や溢(あふ)れるばかりの酒などがあり、楽器が独(ひと)りでに演奏していました。
龍宮にあるものは、龍王の思うがままに動いて生活に困りませんでした。
龍王は生まれた時から一人で龍宮に暮らしており、外の世界を知識でしか知りませんでした。
そこで、龍王は龍宮を出て外の世界に行きました。
ところが、龍宮の外に出ますと、彼は一匹の蛇になってしまい、一人の若者に捕まりました。
若者は蛇となった龍王に芸をさせ、一儲(ひともう)けするために彼を痛め付けました。
龍王は若者のなすがままに村や町で芸を見せ、王宮にやってきました。
国王は龍王を気に入り、若者から買い上げて解放しました。
感謝した龍王は国王に正体を明かし、彼を龍宮に案内しました。
華麗な龍宮で素晴らしい食事などを味わい、国王はどうしてこのような幸福を捨てたのか龍王に尋ね、龍王は国王に答えました。
「外の世界を知らないままでいれば、母のお腹にずっといて産まれない胎児(たいじ)のように、私は真に生きたとは言えませんでした」
真宗大谷派 唯徳寺