第93話
『オシドリの鳴(な)き真似(まね)』
昔、オシドリの鳴き声を真似るのが得意な男がいました。
彼が住む国は、王宮の池に綺麗(きれい)な青い蓮(はす)がありました。
ある日、男の恋人が彼に言いました。
「私のために青い蓮の花を持ってきてくれたら結婚してあげますが、もし出来なかったらこれでお別れです」
そこで、男は王宮の池に忍び入り、オシドリの鳴き真似をすることで、怪しまれずに蓮の花を盗み出そうとしました。
王宮の池に入った男は、青い蓮の花を盗めましたが、その時、番人がやってきました。
男は物陰(ものかげ)に隠れましたが、番人は気配を感じて声をかけました。
「池にいるのは誰だ?」
慌てた男はオシドリの鳴き真似をすることを忘れ、人間の言葉で答えてしまいました。
「私はオシドリです」
「オシドリがしゃべるか!」
蓮如上人が日頃から「後生(ごしよう)の一大事」を心掛けるよう言われたように、いざ何かやろうとしましても、平時から備えていなければ失敗しかねません。
真宗大谷派 唯徳寺