第88話
『苦行者の超能力』
お釈迦さまがお弟子さんたちを連れ、旅をしていた時のことです。
森の奥に小屋があり、その中に一人の疲れ果てた顔の苦行者がいました。
お釈迦さまは苦行者を見て立ち止まり、苦行を始めて何年になるのかと尋ねました。
「二十五年になります」
「そんなに長く苦行をして何を得たのか?」
苦行者は得意気に答えました。
「水の上を歩き、川を渡れるようになりました」
「哀れな人だ」
お釈迦様は同情の声を掛けました。
「そのようなことのために幾歳月も費やしてきたのか。自らの力だけを頼みにするのではなく、船頭の力を頼れば、直ぐさま川の向こう岸まで運んでくれるだろうに」
仮に超能力が身に付いたとしても幸せになれるとは限りません。
寧(むし)ろ超能力にばかり目が行き、自分の心を省みることもなく、幸福から遠ざかってしまうかも知れません。
真宗大谷派 唯徳寺