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住職からのお話

第87話

『苦しみの器』

 昔、あるところに修行者がいました。
 彼は山中の樹下に座し、静かに瞑想していました。
 その山には鳩と烏、蛇、鹿が暮らしていました。

 ある夕暮れに彼らはこの世で一番の苦しみが何かを議論しました。
 烏は得意げに言いました。
「そりゃあ、何と言っても飢えの苦しさが一番さ」 「いいや、一番の苦しみは欲情だよ」
 鳩がそう言いますと、今度は蛇が赤い舌を出しながら語り出しました。
「待ちたまえ、怒りや憎しみほど苦しいものはないさ」
 鹿がごくりと生唾を呑み込んで話し始めました。
「いやいや、世の中で恐怖ほど苦しいものはない」

 このように議論しているところへ例の修行者が来て話し掛けました。
「お前たちの話は木の陰で聞かせてもらった。みんなそれぞれ苦しみについて一通りのことは言っている。だが、お前たちの言う一つ一つの苦しみは、全て我が身という器から出てくるのだ」

 我が身そのものが問題とならなければ、飢えや欲情が満たされ、怒り・憎しみ・恐怖の対象が無くなっても苦しみは消えません。

真宗大谷派 唯徳寺

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