第86話
『川に捨てたお金』
ある町に貧しい人がいました。
持っているお金はほんの僅(わず)かでした。
住んでいる家はあばら屋で、着ている服も、あちこちがすり切れてぼろぼろでした。
その人が大金持ちを見かけました。
その家は広くて綺麗(きれい)で、着ている服もお洒落(しゃれ)でした。
同じ町に住んでいるのにえらい違いです。
同じようにしたくなり、家は流石に無理でしたので、なけなしのお金を持って服を買いに服屋へ行きました。
「あの人と同じ服を下さい」
しかし、服屋の店員はそのお金を見て言いました。
「これでは全く足りません」
店を出ましたけれども悔(くや)しくて堪(たま)りませんでした。
(こんなお金は持っていても役に立たない!)
帰り道で有り金を川に捨てました。
少しのお金でも他に出来ることはあったのですが。
真宗大谷派 唯徳寺