第85話
『折れた木の枝』
野原に一本の木が生えていました。
この木の根元は、夏は木陰(こかげ)になって涼しく、冬は枯れ葉が布団のように積もります。
一匹の狐がこの木の根元をお気に入りの場所にしていました。
ある日のことです。
突風が吹いて木の太い枝が折れました。
その枝が下で休んでいた狐の背中に当たりました。
「痛い! この木のせいだ。こんな木なんかもう見たくない」
狐は駆け出して木から離れたところに行きました。
やがて日が暮れました。
「暗くなってきたな。あの木の下で休みたい。やっぱり帰るとしようか」
しかし、帰ろうにも狐は道が分からなくなってしまいました。
何の不満もない生活などありません。
それなのに、一つでも嫌なことがあり、後先を考えて飛び出しますと、帰ろうと思いましても出来ない場合があります。
気分で決めましたら間違いを犯すことが少なくありません。
真宗大谷派 唯徳寺