第81話
『毒蛇と空き家』
その昔、お釈迦さまが多くの人々を集め、次のような例え話をされました。
あるところに一人の男がおり、道を歩いていましたら、一つの箱を持った賊に出会いました。
「お前にこの箱をやろう。箱の中には毒蛇が何匹もいる。お前はこれらの毒蛇によく気を付けて食を与え、湯に浸(つ)からせたり撫(な)でさすったりして可愛がらなければならない。もし取り扱いが悪いために一匹でも病気になれば、お前を殺すかも知れない。たとえ殺さないまでも死ぬような目に遭(あ)わせるから、そう思うが良い。よく気を付けるんだぞ」
賊に刀を振ってそう迫られ、男は箱を受け取らなければなりませんでした。
しかし、賊と別れた途端、早速、蛇が腹を空かし、男は餌(えさ)を探しました。
彼は一件の家を見付けてそこに駆け込みましたが、そこは空き家であって一つとして満足なものはありませんでした。
お釈迦さまはこの例え話を終わられますと、話の意味を物語られました。
「箱というのは我らの肉体で、一ヶ所でも具合が悪ければ、たちまち亡くなってしまい、そうならないまでも死ぬような目に遭わされる。賊と空き家は貪欲な肉体を完全に満足させることなど決してないこの世間である」
真宗大谷派 唯徳寺