第77話
『塩を知らなかった男』
昔、あるところに大金持ちがいました。
ある日、お昼時になったため、その大金持ちは食事を取りました。
しかし、大金持ちは昼食に不満を抱きました。
「今日の料理は味が薄いな」
彼は給仕していた使用人に言い付けました。
「塩を持ってきてくれ」
使用人は言われた通り塩を持ってきました。
その塩を少しだけ料理に掛(か)け、それを口にしてにっこりしました。
「うん、これで美味(うま)くなった」
その様子を窓から見ていた男がいました。
「そうか、塩ってあんな少しでも美味しいのから、沢(たく)山(さん)あればもっと美味しいんだろうな」
昔の塩作りは大変な仕事で、塩は貴重なものとされていました。
塩を知らなかったその男は、大金持ちの家に忍び込みました。
そして、男は塩が入った壺(つぼ)を台所で見付けました。
彼は塩を口一杯に頬張(ほおば)りました。
どのような良いものも程度が過ぎれば、却(かえ)って害悪になります。
真宗大谷派 唯徳寺