第76話
『何の毛か』
夏のある日のことです。
二人の子供が川遊びをしていました。
川に潜(もぐ)ったところ、川底で一本の毛を見付けました。
子供たちはそれを取って岸に上がりますと、何の毛か言い合いました。
「これは仙人の髭(ひげ)だ」
「いいや、ヒグマの毛だ」
「待って、あそこに仙人がいるよ」
「あの人に聞いてみようよ」
「すみません、これを見付けたんですけれども仙人の髭か、それとも、ヒグマの毛でしょうか?」
仙人はそれが何の毛か分かりませんでしたが、自分が物知りでないとは見られたくありませんでした。
そこで、彼は米と胡麻(ごま)を口に含みますと、もぐもぐと噛んでぺっと吐き出しました。
「これは孔雀(くじやく)の糞(ふん)に似ているじゃろ」
見栄を張るため、話を逸(そ)らそうとした仙人は、的外れなことを言い、余計に恥を掻(か)きました。
真宗大谷派 唯徳寺