第75話
『梨(なし)と石』
昔、あるところに髪のない男がいました。
彼が道を歩いていますと、後ろから人が近付いてきました。
後ろの人は梨の実を取り出しました。
そして、悪戯(いたずら)で髪のない男の頭に梨をがつんと叩き付けて逃げました。
しかし、髪のない男は頭に梨を叩き付けられたことが恥ずかしく、何事もなかったかのように歩き続けました。
それを見ていた別の人が聞きました。
「どうして何もしないんですか? 頭が傷だらけじゃないですか」
「あの人はものを知りません。きっと髪がないのを見て、頭ではなく石だと思ったから、梨を割って食べるためにぶつけたのでしょう。ものを知らない人は困ったものだ」
「あの人がものを知ってるかどうかより、自分が怪(け)我(が)をしていないかどうかの方が大事じゃないですか。何事もないように振る舞っても梨をぶつけられた事実は変わりませんよ」
対面を気にする余り、大したことのないように振る舞っても、起きたことが無くなるわけではありません。
真宗大谷派 唯徳寺