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住職からのお話

第72話

『飲みきれない水』

 昔、あるところにきっちりしすぎな人がいました。
 その人は余りにもきっちりしているので、食事でも食べ物や飲み物を決して残しませんでした。

 ある夏の日、彼は友人と外を歩いていました。
 その日は特別に暑く、二人は喉(のど)がからからでした。
 それでも、何とか歩いていますと、大きな川に辿(たど)り着きました。

 友人の方は直ぐさま川の水を飲もうとしました。
 しかし、きっちりしている人の方は一滴も飲もうとしません。
 どうして飲まないのか友人が尋ねました。
 多すぎて飲みきれないからだとその人は答えました。

 仏教は八万四千(はちまんしせん)の法門(ほうもん)と言われるほど多くの教えがあります。
 その中には難解なものも少なくありません。
 しかし、それら全てを理解しなければならないのかと言えば違います。
 数が多いのはお釈迦さまが様々な種類の人たちに教えを説かれたからです。
 仏教の教えを全て理解しなければ救われないと考えるのは、渇(かわ)きを癒(い)やすためには川の水を飲みきらなければならないと考えるようなものです。

真宗大谷派 唯徳寺

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