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住職からのお話

第64話

『捨てられない糞(ふん)』

 あるところに一人の農夫がいました。

 ある時、市場で野菜を売った帰りに彼は、道端(みちばた)にたくさん転がっている牛糞(ぎゅうふん)と出会いました。
(しばらく前に牛の群れが通ったのか。もう乾いているから、拾って帰れば良い燃料になるだろう)
 そう思って彼は糞をいっぱい拾い集めました。

 それから、糞の重みに耐えながら、家に戻ろうとしました。  ところが、そこに雨が降ってきました。

 すると、背中に担いでいた糞は、雨の水に溶かされ、汁のようになってしまいました。
 糞の汁は背中から次々に流れ出してきました。
 しかし、農夫は糞を捨てれば、これまでの苦労が水の泡になってしまうと思い、そのまま担いでいくことにしました。
 そうして彼は全身が糞に汚れ、臭くなってしまいました。

 人は何かを苦労して手に入れますと、たとえそれを持っていることが害になりましても、なかなか手放せないのかも知れません。

真宗大谷派 唯徳寺

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