第62話
『長い箸(はし)』
昔、あるところに地獄と極楽を見学した男がいました。
男は最初に地獄へ行き、そこでの昼食を見学できました。
テーブルの上には意外にも豪華な料理が山盛りに並んでいました。
しかし、食卓の両側にずらりと並ぶ地獄の住人たちはがりがりに痩せこけていました。
住人たちの手には非常に長い箸が握られ、彼らはそれを必死に動かし、ご馳走を自分の口へ入れようとしますが、上手く口に入りません。
苛々して怒り出す者もいれば、隣の人が箸で摘まんだ料理を奪おうとし、醜い争いが始まりもしました。
次に男は極楽へ向かいますと、そこでの夕食を見学できました。
テーブルの上には地獄と同じく山海の珍味が並べられ、食卓の両側に極楽の住人たちが座っており、その手には長い箸が握られてありました。
ですが、住人たちはふくよかであって肌も艶々でした。
彼らは長い箸でご馳走を挟みますと、自分の向こう側にいる人へ食べさせました。
すると、向こうも微笑んで相手に食べさせてあげました。
そうして極楽の住人たちは仲良く夕食を食べました。
真宗大谷派 唯徳寺