第60話
『昼間の松明(たいまつ)』
その昔、とある町に知恵のある男がいました。
彼は天下に自分ほどの知恵者はいないと誇っており、また、世間の人々も敢(あ)えてそれを否定はしませんでした。
そのため、彼はますます偉そうになり、遂には真っ昼間から松明を持って町中を練り歩き、そして、大声でこう言うのでした。
「ああ、何とも世間の奴らは愚かな輩(やから)ばかりであることか。そのため、昼と夜の見分けさえ知らない。だから、俺さまは面倒なことではあるが、こうして松明を燃やし、周囲を明るくしてやっているのだ」
その態度は如何(いか)にも偉そうであって嫌味なものでした。
実際、町の人々も彼にこうまで言われては少なくとも腹は立ちました。
しかし、彼に面と向かっては誰も抗議するものはいませんでした。
なぜなら、抗議してもたちまち彼に言い負かされるのは分かっていたからです。
実際のところ、彼の知恵には町中の人は誰も歯が立ちませんでした。
ですが、いつも松明で町中を明るくするのは、肉体的にも経済的にも大変で、やがて男は体を壊し、お金も無くなってしまいました。
世間の人々は誰も男を助けませんでした。
真宗大谷派 唯徳寺