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住職からのお話

第59話

『禍母(かも)』

 その昔、何の憂(うれ)いもない安楽(あんらく)な国があり、ある時、その王が群臣に対して言いました。
「私は世の中に『禍(わざわい)』というものがあるということは聞いているが、一体それはどのようなものか」
 群臣(ぐんしん)たちも「禍」を見たことはないと答えたので、国王は探してみようと思い立ち、一人の侍臣(じしん)に命じて隣国(りんごく)へ出発させました。

 すると、天神(てんじん)が「禍」を豚の形にし、人間に化けて隣国の市中(しちゅう)でそれを売り歩きました。
 隣国の市中にやってきた侍臣は、喜んでその豚を買いました。
「この豚は禍母という名で、毎日1升(しよう)の針を食べます」
 天神にそう言われた侍臣は、禍母ともども国に帰り、国王は喜んでその豚に針をその豚に食べさせました。

 禍母はすくすく育ちましたが、その内に至るところで病気や災難が起こり出しました。
 騒乱の原因を占ってみましたら禍母であると分かり、国王たちは豚を殺そうとしました。

 しかし、針を食べて鉄のようになった禍母は、何をしても死にませんでした。

真宗大谷派 唯徳寺

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