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住職からのお話

第58話

『王子の名刀』

 その昔、ある国の王子が浄明刀(じょうみょうとう)という名刀を所持していました。
 これは世に類(たぐ)いなき名刀で、王子は親友である一人の男にしか見せませんでした。

 それから暫(しばら)くしますと、王子は一人で他国に行かなければならなくなり、浄明刀を持っていきました。
 自分も浄明刀のような名刀が欲しいと思っていた親友は、毎晩、うわごとで刀の名を言うようになりました。
 周囲の人たちは何かわけがあるのだろうと考えて王に訴えますと、男は王の前に引き出されて問われました。

「お前がうわごとで言っている刀はどのような刀か?」
「王子さまに見せていただいた浄明刀です」
「どんな形をしておったか」
「それは牛の角のようでした」

 王は群臣(ぐんしん)たちを喚(よ)び、「浄明刀を見たことがあるか」と尋ねました。
 群臣たちの答えは「羊草(ひつじぐさ)のようでした」や「羊の角のような形でした」とまちまちでした。

 刀と言えば大体の想像が付くので、人は少しでも知っているものには知ったかぶりをしてしまうのです。

真宗大谷派 唯徳寺

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