第54話
『後から来るもの』
その昔、ある村に一人の商人がいました。
商人の家は先代まで大富豪(だいふごう)でしたが、今は貧乏のどん底にあり、親族や知人は軽蔑(けいべつ)の目で彼を見ました。
そこで、商人は不愉快(ふゆかい)な故郷を去って他国に行きました。
そして、何年か過ぎた後、巨万の財宝を得て、行列を率いて故郷に帰りました。
これを伝え聞いた親族や知人は、以前とは打って変わった態度で商人を途中まで出迎えようとした。
商人はそれを知り、わざと粗末(そまつ)な服を着て行列の真っ先を歩いた。
親族は何年も経っているので、商人が現在はどのような顔になっているのか分からず、行列の先頭を歩いていた者に彼はどこかと尋(たず)ねました。
訊(き)かれたのは商人その人でしたが、彼は知らぬ顔で後から来ると答え、ずんずんずん先に行きました。
親族は幾(いく)ら待ってもそれらしい姿が見えず、別の人に訊き、ようやく商人を捜(さが)し当て、わざわざ出迎えたのに隠れたのは何故だと詰め寄った。
商人は貴方がたが会いたいのは、私ではなくて財宝なのでしょうから、それなら、後から来る駱駝(らくだ)の背に積まれていると答えた。
真宗大谷派 唯徳寺