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住職からのお話

第44話

『二つの病気』

 その昔、お釈迦さまのお弟子さんであるスダッタ長者(ちょうじゃ)にコウセ長者という親友がいました。コウセ長者は知恵と徳のあるお金持ちでした。
ある時、そのコウセ長者が重病に罹(かか)って床に就(つ)きました。

 親友や知人は心配し、コウセ長者を見舞って医者に診(み)てもらうよう勧めました。しかし、コウセ長者は頑(がん)として聞き入れませんでした。
「私はこれまで善行を積み重ねてきたつもりで、それを神々が認めて豊かな暮らしを送らせてくれたのだろうから、重病に罹るとは運の尽(つ)きであってもうお終いなのだ」と言うのです。

 そこで、スダッタ長者はお釈迦さまと共にコウセ長者を見舞いました。スダッタ長者が医者に診てもらうよう勧めますと、コウセ長者は他の親友や知人に言った理屈を繰り返しました。コウセ長者の言葉をお釈迦さまは黙って聞かれ、それから、口を開いて説かれました。
「人間には二つの病気がある。一つは寒気や発熱といったもので、医薬を用いるなどして治す。もう一つは自分の考えに凝(こ)り固(かた)まることで、人の話をよく聞いて解きほぐさなければならない」

 そのように説かれるお釈迦さまの目は慈悲深く、説法は頭から叱り付けるのではなくて歌うかのようでした。それゆえ、自分はいつでも正しいと思い込んでいたコウセ長者の考えは解きほぐされました。そして、親友や知人の勧めを聞き入れ、医者に病気を治してもらいました。

真宗大谷派 唯徳寺

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