第35話
『大きな梁(はり)』
その昔、お釈迦さまがガンジス川のほとりを通りかかられた時のことです。一人の修行者がお釈迦さまと出会い、修行者は法を説かれんことをお釈迦さまに願い出ました。この時、ガンジス川の中を大きな梁が流されていき、お釈迦さまはそれを指差して言われました。
「修行者よ、川を流れるあの梁は、こちらの岸にも向こう岸にも支えられず、中洲(なかす)にかかりもせず、やがて大海に入ることが出来るだろう」
お釈迦さまの言葉を聞き終わってから修行者は申し上げた。
「その話は何を意味するのものでございましょう?」
そこで、お釈迦さまはこう説かれました。
「修行者よ、川を流れる梁とは生きている人間のことだ。こちらの岸とは動物のごとく欲求に忠実な生き方を言ったのだ。
向こう岸とは仙人のように欲望を断った生き方を言ったのだ。中洲とはそのどちらにも徹せられない存在である人間の生き方を言ったのだ。大海とはそのような人間を生かす浄土のことだ」
修行者はこれを聞いて悟るところがありました。
「こちらの岸にも向こう岸にも支えられないのは、悩みがない動物や仙人のようにはなれないということだ。中洲にかかりもしないのは、そのような存在であることに満足も出来ないということだ。しかし、人間はいずれ生死の流れを離れ、やがて浄土に安住するだろう」
真宗大谷派 唯徳寺