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住職からのお話

第34話

『雹(ひよう)と呪(まじな)い師』

 その昔、しきりに雹の降る町があり、住民たちは五穀(ごこく)の不作に心を痛めなければなりませんでした。
ある時、一人の呪い師が旅の途中にその町へ泊まりました。
その時に丁度、空中に怪しい雲が現れ、雹が降りそうになりました。

 呪い師は雹を止める呪いの術に長じていました。
そこで、彼は呪文を唱え、今まで勢いの盛んであった雲を散らしました。
町内の人はそれを見て喜び、贈り物を持って呪い師のところに行きました。

 人々は贈り物を差し出し、どこへも行かないで永久にここへ住んでくれるよう呪い師に懇願しました。
住民が定期的に贈り物をするという条件で呪い師は町に住むことにしました。
そして、雲が起こる度に呪いの術を修しては甚(はなは)だ手数なので、再び起こらないよう呪いで雲を永久に封じ込めました。

 かくて、雹は町を見舞わなくなりました。
すると、町の人々は呪い師が封じ込めたとは知らなかったので、彼を養うのは費用の無駄であると考え、贈り物をしなくなりました。
呪い師は怒りを抱き、呪いを解いて町を去りました。

 呪い師が去って間もなく町は再び雹のために悩まされました。
再び呪い師が町に立ち寄りますと、町内の人々は沢山の贈り物を持って彼を訪ね、ここに留まってくれるよう願いました。
しかし、呪い師は冷たく言いました。

「どうせまた雹が降らなくなれば、それを当然と思うようになるのだろう」

 人は当たり前の幸せほど有(あ)り難(がた)みを感じなくなるのかも知れません。

真宗大谷派 唯徳寺

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