第32話
『金翅鳥(こんじちょう)の巣』
その昔、仏教の守護神である帝釈天(たいしゃくてん)が阿修羅(あしゅら)という鬼神と戦争をしていた時の話です。
帝釈天の軍は阿修羅軍のために総崩れとなり、車に乗って天宮へとどんどん退却していました。
帝釈天の車が天宮に続く小道へ差し掛かりますと、道に神鳥(しんちょう)である金翅鳥(こんじちょう)の巣がありました。
このまま軍を進めれば、阿修羅軍も追ってきますので、金翅鳥を戦争に巻き込んでしまいます。
そこで、とっさの間に帝釈天は金翅鳥を戦争に巻き込むまいと決心して御者に命令しました。
「阿修羅の軍勢は背後に迫っています。もし車を返せば、我が軍は敵のために全滅するかも知れません」
「車を返しても我らが負けるとは限らないが、このまま進めば、金翅鳥は必ず殺される」
御者は仕方なしに帝釈天の命令のごとく馬を返し、阿修羅軍に向かって車を進めさせました。
阿修羅の大将はこれを見て大いに驚き、必ず何か敵に作戦があると思い込み、本営へ向かって逃げ始めました。
今までの退却は追撃と変わり、勢いを盛り返した帝釈天の軍は、阿修羅軍を追い詰めて大勝利を得ました。
真宗大谷派 唯徳寺