第30話
『雪山童子(せつせんどうじ)』
インドの北にあるヒマラヤ山脈は、いつも雪を頂いていますので、かつては雪山(せつせん)と呼ばれました。
昔、そこではとある若いお坊さんが、生きることに悩んで厳しい修行に励み、雪山童子と称されていました。
ある日、雪山童子は山を歩いていますと、「諸行は無常なり。これ生滅の法なり」という歌を聞きました。
生きることに悩んでいました雪山童子は、この歌に感じるところがあり、もっと聞きたいと思って声の聞こえる方に向かっていきました。
すると、そこには恐ろしい顔の鬼がいたのですが、歌っていたのはその鬼でした。
雪山童子は初め恐ろしく思いましたが、やがて意を決し、鬼に声を掛け、歌を始めから聞かせてもらえないかと頼みました。
鬼は見返りに雪山童子を食べても良いなら歌おうと答えましたが、雪山童子はそれを受け入れました。
彼は歌を聞き終えますと、思い残すことは無くなり、自分と同じように悩んでいる人のため、歌詞を近くの石に彫り、それから、自身の体を鬼に差し出そうとしました。
ところが、鬼の姿は見当たらず、代わりに帝釈天(たいしゃくてん)という神さまがおり、雪山童子が相手を外面だけで判断して人の話を聞かないことがないかどうかを試したのだと言いました。
その後、雪山童子は山を下り、町に出てどのような人の話にも耳を傾けたのですが、彼は若い頃のお釈迦さまでした。
真宗大谷派 唯徳寺