第23話
『目をつむった亀』
お釈迦さまがお弟子さんの阿難(あなん)さんにおっしゃりました。
「自分が他の動物や植物ではなく、人間に生まれたことをどう思う?」
「とても喜ばしいことだと思っております」
「どれくらい喜んでいる?」
阿難さんが答えられずにいますと、お釈迦さまはたとえ話をされました。
「広い海に亀がおり、同じ海のどこかで丸太が海流に流されているとしよう。
丸太には小さな穴が空いている。
亀は何万年も生きると言われるが、その亀は百年に一度だけ海から顔を出す。
普段は海の中にいるので、日の光がまぶしくて、亀は目をつむっている。
亀が出た時、海面に丸太が漂っており、その穴に顔が入る。
そのようなことはあり得るだろうか?」
お釈迦さまの問いに阿難さんは驚きました。
「まずそのようなことは起こりません」
「絶対にないとは言い切れるだろうか?」
「何億年か何兆年の間なら、ひょっとしたらあるかも知れません。
しかし、まずないと言って良いでしょう」
「人間として生まれるのは、それくらい難しいことなのだ。
普段は何でもないことのように思っているが、それはとても有り難いことなのだよ」
真宗大谷派 唯徳寺