第2話
『子を亡くした母』
昔、インドにお子さんを亡くしたお母さんがいました。お母さんの生まれた家は貧しく、嫁いだ先は豊かだったので、いつも苛められていました。
しかし、愛らしいお子さんが生まれますと、嫁いだ先でも苛められなくなりました。
ところが、そのお子さんが病で亡くなってしまったのです。お母さんはお子さんの死が信じられず、屍を誰にも渡しませんでした。
そして、外に出ては道を行く人に「この子が病になったのでお薬を下さい」と訴えました。
これを見かねた人がお母さんをお釈迦さまのところに連れていきました。お母さんはお釈迦さまにも「どうかこの子にお薬を下さい」と訴えました。お釈迦さまはお母さんに告げました。 「よしよし、良い薬をあげよう。これから町へ行き、家を一軒つずつ訪ね、白いケシの種をもらっておいで。ただし、これまで一人も亡くなった人を出した家のものは役に立たないよ」
お母さんは喜んで町へ行き、家を一軒ずつ訪ねましたが、どこを訪ねてもこれまで一人も亡くなった人を出していない家はなく、やがて気が付きました。
「一人も亡くなった人を出していない家など一軒もないのだ。誰でも愛する人を亡くしている。
生まれた者は遅かれ速かれ亡くなるのに、この子をどうしても諦められない私が浅はかだった」
お母さんはお墓へ行き、お子さんの屍を葬りました。
真宗大谷派 唯徳寺