第19話
『赤い真珠』
昔、お釈迦(しゃか)さまに阿難(あなん)さまが問いかけました。
「お釈迦さまは六年の修行で悟られたそうですが、たった六年とは随分(ずいぶん)と簡単に悟られたのですね」
それに対してお釈迦さまは次のような話を説かれました。
あるところにお金持ちがいました。お金持ちは多くの宝を持っており、その中には白い真珠もありましたが、赤い真珠は持っていませんでした。そのことに気付いたお金持ちは、どうしても赤い真珠が欲しくなりました。
そこで、お金持ちは赤い真珠貝を探しました。しかし、赤い真珠貝のいる海へ出たかと思えば鮫(さめ)に襲われ、何とか赤い真珠を手にしたかと思えば、それを羨(うらや)む友人たちに騙(だま)され、井戸へ突き落とされて殺されそうになりました。それでも、お金持ちは赤い真珠を自分のものにし、家に帰ることが出来ました。
ところが、赤い真珠を見た二人の子供たちは、親の苦労も知らず、それを玩具(おもちゃ)のように扱いながら言いました。
「この真珠はどこにあったんだろう?」
「僕の財布にあったんだよ」
「そうだね。こんなものは台所の甕(かめ)にだってあるよね」
子供たちの無邪気さにお金持ちは思わず微笑みました。
お話を終えてお釈迦さまは「今だけのこと、表面だけのこと、一部だけのことを見て物事を判断してはいけない」と説かれました。
真宗大谷派 唯徳寺